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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)12513号 判決

原告

松井良弘

右訴訟代理人弁護士

針間禎男

右同

藤本裕司

被告

昭産業株式会社

右代表者代表取締役

栗栖昭

右訴訟代理人弁護士

森島徹

右同

西尾忠夫

右同

宮原民人

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求(1及び2は択一的)

1  被告は原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成七年九月二一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成三年七月二五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  請求原因

一  被告は兵庫県多可郡八千代町大屋・加美町寺内でゴルフ場である滝野カントリー倶楽部八千代コース(以下「八千代コース」という。)を経営している。

二  被告は平成三年一月から一般会員の募集をし、原告は平成三年七月二五日、個人正会員として入会(以下「本件会員権契約」といい、右契約上の地位を「本件会員権」という。)し、入会金三〇〇万円及び預託金一七〇〇万円を被告に支払った。八千代コースは平成四年九月に仮オープンし、同五年四月にオープンした。

三  本件会員権契約の内容は八千代コース及び今後建設される被告経営門柳コースの優先的利用権を内容とするものであり、この二コースの合計最終会員数は一二〇〇名、募集金額は二〇〇〇万円(内三〇〇万円が入会金、内一七〇〇万円が預託金)であり、会員たる地位は別に定める条件で他に譲渡できるというものである。

四  本件会員権契約の対象である門柳コースについては、現在にいたるまで開場されておらず、右開場の遅延は本件会員権契約の不履行である。

五  本件会員権契約の締結にあたり、現実にはいつでも会員権の譲渡可能であるとしたのに正当な理由なく一方的に長期間にわたり譲渡を禁止しており、これは事実上の名義書換拒否であり、また、会員数が満るまで名義書換を停止するという常識、慣行はない。

また、理事会の名義書換停止の決議はその期間があいまいであり、事実上の名義書換拒否であり、無効である。

六  被告は本件会員権契約の内容たる会則に反し、平成七年ころから旧会員の同意なく従来の募集金額二〇〇〇万円(内入会金三〇〇万円)を一二〇〇万円に値下げして新会員を募集し、また、会則にはない女性会員を八〇〇万円(内入会金一二〇万円)で募集している。このことは会員権の価格が新規募集金額まで下落することを意味し、段階的募集の原則に反し、投資目的で会員権を取得している会員の既得権を侵害するものであり、被告には、このような事態を生じないように適切な処置(例えば、従前の募集金額より下げて会員を募集するときは旧会員の同意を得たうえで、旧会員に会員権を二分割して募集金額を合わせる、特典を付与する等)を講じるべき義務に違反するものである。

七  本件会員権契約において、最終正会員数は一二〇〇名であり、被告はこれを越えて会員を募集しているが、入会金の額と会員数は原告にとって最大の関心と利害関係を有しているものであり、被告が自由に決定できるものではなく、この点に関する会則の改正も無効である。また、新たに女性会員を定めた会則の改正は無効である。

八  以上に述べたように被告には本件会員権契約における債務不履行があり、原告は被告に対し、平成七年八月一〇日到達の内容証明郵便で右不履行を理由に本件会員権契約の解約の解除の意思表示をし、入会金及び預託金の合計二〇〇〇万円の返還を求めた。これに対し、被告は同年九月二〇日、これに応じない旨の回答をした。

よって、原告は被告に対し、右金二〇〇〇万円及びこれに対する本件会員権契約解除後である平成七年九月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

九  被告は本件会員募集の当初から門柳コースについて開場の見込みがなく、また、開場の意思もないのにあるかのように装って、原告に対し、会員の募集をし、平成三年七月二五日、原告との間で本件会員権契約を締結し、原告より入会委託金名下に合計二〇〇〇万円の支払を受けた。

右は被告の詐欺による意思表示であるので、原告はこれを取り消したうえ、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として二〇〇〇万円及び不法行為の日である平成三年七月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  請求原因に対する認否及び主張

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実は認める。なお、被告は平成二年二月から縁故募集を行い、その後同三年一月から一般会員の募集を開始した。

三  同三の事実のうち、募集金額が二〇〇〇万円(内三〇〇万円が入会金、内一七〇〇万円が預託金)であること、会員たる地位は別に定める条件で他に譲渡できることは認め、その余の事実は否認する。

本件会員権契約の内容となっているのは八千代コースだけで、門柳コースはその内容でない。一般会員の募集パンフレットにも八千代コースについては開発認可済みで工事着工時期及び完了時期を具体的に記しているが、門柳コースについては開発許可申請中とだけ記載し、オープン時期については何ら記載しておらず、門柳コースに対する優先的利用権は本件会員権契約の内容となる程度に確定しておらず、門柳コースは本件会員権契約の内容とはなっていない。

最終正会員数が一二〇〇名というのは八千代コースについてであり、二コースの合計が一二〇〇名ではない。このことは、八千代コースについて、一般会員の募集に先だってなされた特別縁故会員募集要項にその旨記載されていること、一般にゴルフクラブの会員の適正数は一コース八〇〇名ないし一二〇〇名程度であることからも窺える。また、募集予定人員は法的拘束力は持たず、適正会員数が会員権契約内容になる。

四  同四の事実のうち、門柳コースが開場されていない事実は認め、その余は否認する。

先に述べたように、門柳コースは本件会員権契約の内容に含まれていない。また、一般会員募集時において、門柳コースについては地権者および森林組合の同意は得ていたものの、開発に関し申請協議中であり、開発許可は出ていなかった。そして、門柳コースが開設できなかったのは保安林解除に関する規制が強化されたため、保安林の解除が得られなかったことにあり、それは被告の責任ではない。

被告は門柳コースの代わりに迎賓館コースを開場し、右コースは本件会員権契約に基づいて原告が優先的に利用できるものであり、また、迎賓館コースは場所的に八千代コースに近接し、そのグレードも高いのであるから、本件会員権契約において仮に八千代コースと門柳コースの二コースの優先的利用がその契約内容となっていたとしても、迎賓館コースの開場により、その目的は達成されている。

五  同五の事実のうち、平成四年四月から名義書換を停止している事実は認める、その余は争う。

ゴルフ会員権は施設の優先的利用権を本質的権利とし、会員権譲渡の自由は本質的権利ではない。名義書換を停止していてもいわゆる念書売買の方法で会員権を譲渡することはできる。名義書換停止に合理的な理由がない場合には会員権譲受人は施設経営者に対して、名義書換を要求でき、譲受人は会員となれるので、会員権の譲渡は可能である。また、名義書換を停止しても会員権の本質である施設の優先的利用権は侵害されていない。

被告は二コースでプレイできるゴルフ場の経営を計画し、会員を募集して二コースを開場し、当初予定した会員数に満るまで名義書換を停止することとした。ゴルフ場の開発資金は預託金によってまかなうので、当初予定している会員数に満たないうちに名義書換を認めると会員権の価格が下落している場合には予定会員数を満たせなくなり、開発資金の回収ができなくなる。これを防止するためには、会員数を満たすまで名義書換を禁止するのが慣行であり、平成四年三月一五日から同年五月一六日の間に名義書換停止期間を二コース共通会員の募集が終了した時点までとする旨を持ち回り理事会で決議した。

六  同六の事実のうち、平成七年ころから旧会員の同意なく従来の募集金額二〇〇〇万円(内入会金三〇〇万円)を一二〇〇万円に値下げして新会員を募集したこと、原告が入会した当時の会則にはない女性会員を八〇〇万円(内入会金一二〇万円)で募集している事実は認める、その余は争う。

ゴルフ場を経営する会社は会員に対して会員権の相場価格上昇を保証していないし、また、下落させない義務もない。新規募集金額は資金計画を達成するために決めるものである。

七  同七の事実は否認する。

もともとゴルフ倶楽部は会員相互の親睦等を目的とする任意団体に過ぎず、募集人員、会員の区別等を決定するのは経営会社たる被告である。右事項は経営権の行使であり、会員や理事会で決定することでない。

また、最終正会員数については、前記三で主張したとおりである。

八  同八の事実のうち、原告が被告に対し、平成七年八月一〇日到達の内容証明郵便で債務不履行を理由に本件会員権契約の解除の意思表示をし、入会金および預託金の合計二〇〇〇万円の返還を求めた事実は認め、解除の効果は争う。なお、入会金については事由の如何にかかわらず返還しない旨約定されている。

九  同九の事実は否認ないし争う。

第四  判断

一  請求原因一及び二の事実は当事者間に争いがない。

二  同三の事実のうち、募集金額が二〇〇〇万円(内三〇〇万円が入会金、内一三〇〇万円が預託金)であること、会員たる地位は別に定める条件で他に譲渡できることについては当事者間において争いがない。

滝野カントリー倶楽部パンフレット(甲一)には、二コースにおいて優先的にプレーできること、そのコースの具体的対象として、八千代コース及び門柳コースが記載されているが、門柳コースについては、現在認可申請中である旨記載され、具体的に開場予定日は記載されていないこと、また門柳コースについてはすべて計画であり、一部変更する場合もある旨記載されていること、その中の会則には門柳コースの利用については具体的には記載がないことからすると、本件会員権契約の内容は八千代コース及びもう一コースを優先的に利用できるというものであり、もう一コースについては、それを門柳コースとすることが確定的な内容にはなっていなかったものと認められる。

次に、最終会員数について、ゴルフ場等に係わる会員契約の適正化に関する法律に基づく説明書(乙一三)の八千代コースについて最終正会員数は一二〇〇名と記載されており、このことからするとゴルフ場一コースの適正な最終正会員数についてはこの程度の人数であることが認められ、仮に原告主張のように二コースで一二〇〇名とするとかなり稀少価値のあるゴルフコースとなり、そうだとすると被告はその旨当然募集要項に記載し、それをいわゆる「売り」とすると考えられるが、本件会員権の募集要項にはその旨の記載がないこと、また、本件会員権募集に先だってなされた特別縁故者募集要項(乙二)には八千代コース分一二〇〇名と記載されていることからすれば、当面完成予定されていた八千代コースについてはその最終正会員数を一二〇〇名とするのが本件会員権契約の内容であったと解するのが相当である。

三  同四の事実のうち、門柳コースが開場されていない事実は当事者間において争いがない。

前記認定のとおり、本件会員権契約は八千代コースともう一コースを優先的に利用できることを内容とする契約であり、乙第一一号証によると、被告は迎賓館コースを現在開場しており、原告は右コースについてその優先的利用権を有している(乙一三、弁論の全趣旨)。

迎賓館コースと計画されていた門柳コースを比較すると、前者のコースの方がよりフラットであり、総ホール数の距離は前者の方が長く、また、コース全体のレイアウト等迎賓館コースが計画されていた門柳コースに比して貧弱であるとはいえず、従って、迎賓館コースが開場している現在において、被告は本件会員契約の内容たる二コースを優先的に利用できるという点について、被告はその履行を完了したものと認められ、この点の不履行をいう原告の主張は理由がない。

四  同五の事実のうち、平成四年四月から名義書換が停止されている事実は当事者間において争いがない。前期認定のとおり、本件会員権契約においては、会員たる地位は別に定める条件で他に譲渡することができると定められており、また、ゴルフ会員権は施設の優先的利用権を本質的権利とし、会員権譲渡の自由は本質的権利でなく、名義書換を停止していてもいわゆる念書売買の方法で会員権を譲渡することはでき、また、名義書換停止に合理的な理由がない場合には会員権譲受人は施設経営者に対して、名義書換を要求でき、譲受人は会員となれるので、会員権の譲渡は可能である。また、名義書換を停止することで施設の優先的利用権が侵害されたものでもなく、結局原告の主張は理由がない。

五  同六の事実のうち、平成七年ころから旧会員の同意なく従来の募集金額二〇〇〇万円(内入会金三〇〇万円)を一二〇〇万円に値下げして新会員を募集したこと、原告が入会した当時の会則にはない女性会員を八〇〇万円(内入会金一二〇万円)で募集している事実は当事者間に争いがない。

右において問題にされているのはゴルフ会員権が財産的価格を有するものとして取引が盛んに行われ、会員権相場価格と預託金価格との差が大きくなり、会員権取得目的もゴルフクラブでプレーすることよりも会員権相場による利殖を狙う向きが増えてきているから、ゴルフ場経営者は会員権相場価格を維持すべき義務の有無であるところ、ゴルフ会員権は施設の優先的利用権を本質的権利とし、会員権譲渡の自由は本質的権利でなく、整った法的制度のもとでの流通が保障されているものではないから、被告において、会員権の相場価格を維持すべき義務は認められず、この点をいう原告の主張は理由がない。

六  同七の事実について、本件会員権契約における八千代コースの最終正会員数は一二〇〇名であることは前記のとおりであり、二コースの最終会員数を一二〇〇名を前提とする原告の主張は理由がなく、また、女性会員を定めることについては、それによって、原告の施設の優先的利用権が侵害されるか否かが問題とされるべきであり、この点、原告の右権利が侵害されるとは当然にいえず、結局原告の主張は理由がない。

七  同九の事実について、被告は迎賓館コースを開場したことは前記のとおりであり、また、門柳コースが開場できなかったのは保安林解除に関する規制が強化されたためであり、(乙四、五、一〇)、右コース開場のため被告は開発行為協議申出を兵庫県知事に対して行い(乙三)、森林組合の同意は得ていた(乙七、八)ものであるから、当初から開場の見込みなく会員の募集をしたと認められず、その他、右事実を認めるに足りる証拠はない。

八  以上から、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判官今中秀雄)

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